開発の経緯

ヴァイトラックビ(一般名 ラロトレクチニブ硫酸塩)は、米国Loxo Oncology社(以下、Loxo社)により開発された、トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)に対する阻害剤であり、標的以外のキナーゼの阻害を回避するように設計されています。

 

TRKは、増殖因子ファミリーである神経栄養因子と結合することにより、細胞内にシグナルを伝達し、神経細胞の分化及び生存維持、生理的機能の発現に関わっています。TRKA、TRKB及びTRKCタンパク質をそれぞれコードする神経栄養因子チロシンキナーゼ受容体(NTRK)遺伝子NTRK1NTRK2NTRK3と他の遺伝子の融合が起こると、TRK融合タンパクが生じ、恒常的にTRKキナーゼ及び下流のシグナル伝達経路が活性化され、腫瘍細胞の増殖及び生存延長が促進されます。NTRK融合遺伝子はドライバー遺伝子の一つと考えられており、NTRK融合遺伝子陽性患者に対しては、TRKキナーゼを阻害する治療が有効であると考えられます。

 

ヴァイトラックビの臨床開発は、Loxo社により2014年から開始され、2017年にBayer社との共同開発となり、2019年にBayer社が開発・販売に関する独占的なライセンス権を取得しました。

2014年より、米国において、18歳以上の進行固形癌患者を対象とした海外第Ⅰ相試験(試験20288)が開始され、用量制限毒性(DLT)、最大耐用量(MTD)、更なる臨床評価のための推奨用量、並びに薬物動態及び抗腫瘍効果が検討されました。その後、2015年より、ヴァイトラックビの有効性及び安全性を検討することを目的として、12歳以上のNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌患者を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(NAVIGATE試験)及び21歳以下の進行・再発の固形癌患者を対象とした国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験(SCOUT試験)が開始されました。

 

米国では、2016年7月に画期的治療薬(Breakthrough Therapy)に 、2017年5月に希少疾病用医薬品(Orphan Drug)に指定されています。また、3試験(試験20288、NAVIGATE試験及びSCOUT試験)で集積された計55例の有効性及び安全性データを主な臨床成績として、2018年3月に承認申請が行われ、2018年11月に承認を取得しました。この米国での最初の承認を始めとして、欧州連合加盟27ヵ国を含む合計42の国及び地域で承認されています(2020年10月時点)。

 

本邦においても、NAVIGATE試験及びSCOUT試験に参加し、加えて、日本人における薬物動態を評価するため、日本人健康成人を対象として、100~400mgを単回投与した際の薬物動態の評価を行う臨床薬理試験(試験20381)が実施されました。これらの日本人データ及び海外データに基づき、2020年5月に承認申請を行い、2021年3月に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」を効能又は効果として承認を取得しました。

4.効能又は効果

NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌

6.用法及び用量

通常、成人にはラロトレクチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
通常、小児にはラロトレクチニブとして1回100mg/m2(体表面積)を1日2回経口投与する。ただし、1回100mgを超えないこと。なお、患者の状態により適宜減量する。